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神戸地方裁判所 昭和47年(ヨ)438号 決定 1973年3月28日

債権者 阿部美詠子

右法定代理人親権者父 阿部達雄

右同母 阿部都志子

<債権者ほか五名>

右債権者ら代理人弁護士 藤原精吾

右同 井藤誉志雄

右同 前田貞雄

右同 井上逸子

右同 山崎満幾美

右同 野沢涓

右同 持田穣

右同 宮崎定邦

右同 前田修

右同 木村治子

債務者 神戸市

右代表者市長 宮崎辰雄

右代理人弁護士 奥村孝

右同 石丸鐵太郎

右同 小松三郎

主文

一、債務者が別紙図面記載の土地のうち青実線をもって囲んだ土地内に本山老人憩の家(図書館併設)を建設する場合には、債権者らに対し右土地内神戸市立本山保育所の屋外遊戯場として四四五・五平方米以上を残さなければならない。

二、債務者は、右憩の家(図書館併設)の建設が完了したときには、別紙図面記載の土地に作られている板囲い(但し、青点線で表示した部分)をすみやかに撤去しなければならない。

三、申請費用はこれを一〇分し、その九を債権者らの負担、その一を債務者の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、債権者ら

1、債務者は、別紙図面記載の土地のうち、赤斜線で囲んだ土地内に神戸市立本山老人憩の家(図書館併設、以下、単に憩の家という。)の建築に着工してはならない。

2、債務者は、別紙図面記載の土地に作られている板囲い(但し、同図面中青点線で表示した部分)を撤去せよ。

3、債務者は、債権者らが別紙図面記載の土地のうち、赤斜線で囲んだ土地内に立入り、利用するのを妨害してはならない。

4、申請費用は債務者の負担とする。

二、債務者

本件申請を却下する。

第二、債権者らの申請の理由の要旨

一、債務者神戸市は、児童福祉法三五条三項により、神戸市東灘区本山町田辺字西良寄に市立本山保育所(以下、単に保育所という。)を設置し、昭和四六年六月一日からその業務を開始したが、債権者阿部美詠子、同高梨政大は保育所開設と同時に、同藤岡真紀は同年七月一七日に、同藤田あつみは昭和四七年一月一〇日に、同藤岡あかねは同年四月一日に、同藤田玄は同年六月一日にそれぞれ保育所に入所し現に同保育所で保育されているものである。

二、保育所は、総面積一、三〇五平方米の敷地に鉄筋コンクリート造三階建(建坪三一七、八平方米)で建てられ、残り(但し、別紙図面記載の土地のうち青実線で囲んだ部分)を屋外遊戯場として利用してきた。なお、保育所の定員は一五〇名である。

三、ところで、債務者は、保育所の屋外遊戯場内に憩の家を建設するため、昭和四七年一月二一日、保育所の屋外遊戯場内に板囲い(但し、別紙図面中青点線で表示した部分)を作り、同月二四日朝、囲い内でブルドーザによる穴堀り作業を始めた。神戸市の計画によると、憩の家は鉄筋コンクリート造三階建で、保育所建物の東側に接着して南北に建てられる予定である。

四、しかしながら、憩の家の建築は以下に述べる理由によって違法なものである。

1、憩の家が計画どおり建築されると、従来保育所(したがって債権者ら)が屋外遊戯場として使用していた約八一一平方米のうち約三九一平方米が削減されることになるのであるが、このことは憲法二五条、児童福祉法一条ないし三条および児童憲章に違反する。

児童憲章は「児童は、社会の一員として重んぜられ、よい環境のなかで育てられる」と宣言しており、児童が「よい環境のなかで育てられる」ことは、児童の生存権的基本権として、教育を受ける権利(憲法二六条)とともに、憲法二五条によって権利として保障されている。そして、児童福祉法はその一条で児童福祉の理念として「すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるように努めなければならない。すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。」旨定め、同法二条は児童の「よい環境のなかで保育される権利」を保障するために「国及び地方公共団体は、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。」旨定め、同法三条は児童福祉原理の尊重を定めている。

そして、右の憲法、児童憲章および児童福祉法の規定からみると債務者が憩の家を建てることによって保育所の屋外遊戯場を狭ばめることは債権者らの保育環境を著しく悪化させるものであって、右憲法二五条、児童憲章および児童福祉法一条ないし三条に違反し、許されないというべきである。

2、次に、屋外遊戯場を狭くすることは児童福祉法四五条をうけた児童福祉施設最低基準(昭和二三年一二月二九日厚生省令六三号以下単に「省令最低基準」という。)四条二項の「最低基準をこえて、設備を有し、又は運営をしている児童福祉施設においては、最低基準を理由として、その設備又は運営を低下させてはならない。」旨の規定に明らかに違反する。

3、また、屋外遊戯場を狭くすることは「省令最低基準」五〇条六号後段「屋外遊戯場の面積は、満二歳以上の幼児一人につき三・三平方米以上であること。」との規定に違反する。即ち、保育所の屋外遊戯場は憩の家の建設によって四二〇平方米に縮少される。しかるに、保育所の定員は一歳児一八人、二歳児二四人、三歳児三六人、四、五歳児五七人であるが、一歳児も一年を経過する前に二歳児となるのであるから、一歳児一八人をも含めた合計一三五人につき、一人当り三・三平方米(合計四四五・五平方米)以上が確保されなければならず四二〇平方米では明らかに右の最低基準に達しない。また、一人当り三・三平方米というのも、すべり台、砂場、足洗い場等の固定施設や樹林の面積を除いたそれ以外の土地を基礎にして算出すべきものであるから、本件の場合はなおさら右最低基準を下回ることになり、前記基準に違反する。

4、さらに、前記「省令最低基準」を定める「一人当り三・三平方米」という最低基準は昭和二三年に制定されたものであって、今日の児童の体位向上等の実情にてらすと、著しく低きに失し、それ自体が憲法二五条、児童福祉法一条ないし三条に違反する。

即ち、幼児にとって遊びは生活の重要な部分を占めるもので、人間形成の基礎を培う上に不可欠といえるにも拘らず、保育園のある地域環境も都市化現象に追われ、近隣に幼児の自由な遊び場がない。また、近年乳幼児の体位の向上は著しく、ちなみに同二五年当時の〇歳児から五歳児までの身長および体重と同四五年におけるそれらとを比較すると、例えば男子の場合〇歳児一・六糎、〇・九kg、一歳児四・八糎、一・三kg、二歳児五・八糎、一・三kg、三歳児五・〇糎、一・二kg、四歳児六・六糎、一・七kg、五歳児五・四糎、一・三kgと、それぞれ著しく伸びている。更に、右体位の向上に伴い、乳幼児の運動面における成長も加速化され、現に保育園でも二歳未満の幼児の運動場での遊びはカリキュラムの中に組み入れられている。そこで、今日では幼児一人につき最低限六ないし一〇平方米確保されることが必要であり、従って、現行の最低基準は、著しく低く違憲、違法である。

5、次に、児童の発育にとって一日最低四ないし六時間の日照が必要不可欠である。

保育所では従来児童の使用してきた屋外遊戯場のうち保育所建物南側の部分は、道路を隔てた南側に既に保育所建設前から六階建マンションがあるため日照に乏しく、例えば、午前九時には右部分の四〇パーセント程度しか日照部分がなく、更に時間が経つにつれてますます日照部分は減り、正午には右部分の西隅のわずかな部分を除き日照部分は殆どなくなる。

そこで、屋外遊戯場のうち、憩の家建設計画地が陽のあたる貴重な場所として使用されてきたものである。本件憩の家が建設されることはとりもなおさず、債権者らの不可欠の日照を奪うものであって許されない。

五、保全の必要性

債務者は、憩の家建設工事に着工しようとしているので、本案判決をまっていたのでは、債権者らのよい環境のなかで保育される権利および日照権に対する侵害の予防、排除を求めることが困難となり、回復し難い損害を蒙ることになるから、本件仮処分を求める。

第三、債務者の主張の要旨

一、本件仮処分命令の申請は保育所の保育の方法に関しするものである。しかし、児童が保育所に入所すると保育所設置者と当該児童との間には支配服従の関係が生じる。そして、児童をいつからいつまで如何なる保育をするとか、どこで遊ばせるかなどの保育の日課や方法についての責任と義務はすべて保育所設置者にあり保育される児童にはそれらに関しては何ら請求する権利はない。従って、本件請求はそれ自体失当である。

二、憩の家の建設は当時から予定されていたものであり、また、その建設促進の必要性がある。

債務者は、福祉政策の一方策として、孤独な老人と無郊気な幼児との間に自然の交流が生まれることを期待し、保育所と憩の家を隣り合せに設置することを考え、その実現をはかることにした。本件の場合にも右方策に従い、合計一、三五一・八二平方米の敷地に保育所と憩の家とをL字形三階建でもって隣接して併設することにしたが、ただ予算措置上、保育所は昭和四五年度に、憩の家は昭和四六年度に建設することになり、本件土地に憩の家を建設するまでは一時的に数ヵ月間そこを保育所の屋外遊戯場として使用させていたものにすぎない。

三、憩の家を建設しても屋外遊戯場の面積は最低基準を割ることはない。

保育所の定員は〇歳児一五人、一歳児一八人、二歳児二四人、三歳児三六人、四、五歳児五七人(合計一五〇人)で二歳児以上一一七人であるから、屋外遊戯場の面積が「省令最低基準」五〇条六号後段の最低基準を満たすためには二歳児以上合計一一七人につき、一人当り三・三平方米、合計三八六・一平方米あれば足りるところ、保育所の屋外遊戯場は水遊び場二三・四四平方米を加算すると四三六・五五平方米あって基準を上まわっている。なお、昭和四七年八月四日現在の入所児童は一三二人でそのうち二歳児以上は一〇九人である。

四、憩の家を建設しても日照に悪影響はない。

憩の家の建設による保育所屋外遊戯場に対する日照の影響は、冬至において、日影面積は午前九時で三三平方米(屋外遊戯場に対する割合は七・八五パーセント)、午前一〇時で一六・五平方米(同じく三・九二パーセント)、午前一一時には零であって、その日影も北東の隅であるから殆ど影響はない。むしろ、屋外遊戯場南側のビルによる影響こそが大きいといえる。

五、憩の家の建設は、建築基準法に違反しない。

保育所の建物は建築面積三一七・七三平方米(延七〇七・一四平方米)で、憩の家は建築面積三二五・一一平方米(延八九三・六八平方米)であるから、全体の敷地一三五一・八二平方米に対比しても建築基準法規に適合している。

第四、疎明関係≪省略≫

理由

一、まず債務者は本件申請が、保育所の専権に属する保育方法に関するものであるからそれ自体失当である旨主張するが、本件申請が、保育の具体的日課や方法に関するものでないことは明らかであるから右主張は理由がない。

二、当事者間に争いのない事実および本件各疎明を総合すると次の各事実が一応認められる。

1、債務者は、その福祉政策の一環として本件土地を含む市有地約一、三五一・八二平方米の土地に東灘地域福祉センターの建設を計画し、保育所を右全体敷地の西側部分の北側に東西に、憩の家を保育所の東側に南北に配し、緑地帯を憩の家の東側に南北にとることとし、その敷地として保育所敷地は約九一四・七〇平方米憩の家敷地約三九一・〇〇平方米、緑地帯敷地約四六・一二平方米をそれぞれ予定した。

2、そして、債務者は昭和四五年度に保育所を、昭和四六年度に憩の家を建築する予算措置をこうじ、まず昭和四五年一一月二一日、保育所建築工事に着手し、昭和四六年五月鉄筋三階建(一部二階建)建坪約三一七・七三平方米の保育所を完成させ、同年六月一日に零歳児一五名、一歳児一八名、二歳児二四名、三歳児三六名、四、五歳児五七名の定員で保育業務を開始した。

3、債権者らは、その主張の日にそれぞれ右保育所に入所し、午前八時から午後五時まで保育を受けている。

4、債務者は、前記計画により、ひきつづき憩の家建設を具体化し昭和四六年一二月一〇日申請外甲南建設工業株式会社と工事請負契約を締結し、昭和四七年一月二一日保育所の東端からやや西寄りの線に沿いその屋外遊戯場内の南北に板囲いを設置(別紙図面表示のとおり)し、同月二四日別紙図面赤斜線部分を敷地としてその建設工事を開始した。

5、ところで、右のとおり保育所と憩の家の建築が二会計年度にわたり、保育所業務の開始が先行したため、債権者らを含む入所児童は当初から前記憩の家敷地および緑地帯予定地を事実上屋外遊戯場として使用していたが、憩の家が予定どおり建設されるとこの利用が不可能になり、債権者ら児童が屋外遊戯場として利用できるのは運動場、砂場など四一三・一一平方米および足洗い場兼プール二三・四四平方米(合計四三六・五五平方米)となる。

6、また、憩の家の建設計画によると、憩の家は保育所の東側に南北に三階建(一部は一階建で、建物の建面積は約二九六・一〇平方米)に保育所とL字形に建設されるものであるが、これが予定どおり完成されると、右建物が保育所の屋外遊戯場に落とす影の面積は、冬至において、午前九時には約三三・〇平方米、午前一〇時には約一六・五平方米であり、午前一一時には皆無となる。

以上のとおり認められ、他に右認定を左右するに足りる疎明はない。

三、そこで、債権者らの主張について検討する。

1、まず、債権者らは屋外遊戯場を狭くすることは憲法二五条、児童福祉法一条ないし三条および児童憲章、さらには児童福祉法四五条に違反する旨主張する。

しかし、元来保育所の敷地は約九一四・七〇平方米であり、本件憩の家等建設敷地は、当初から予定されていたものであって、ただ、右敷地部分は憩の家および緑地帯が設置されるまで暫定的に債権者ら入所児童の利用を許していたに過ぎないものであることは、前認定のとおりである。してみると、憩の家および緑地帯の敷地が当初から保育所の屋外遊戯場であることを前提とする債権者らの主張は理由がない。

もっとも、債権者ら保育所入所児童が本件憩の家建築予定地を入所以来事実上使用していたことは前認定のとおりであるが、そうだからといってこのことから当該部分全体につき保育施設としての具体的使用権が発生する法的根拠はない。

2、更に、債権者らは日照権を侵害して違法である旨主張するが、既に認定したとおり、憩の家が保育所の屋外遊戯場に落とす日影面積は、冬至において午前九時三三・〇平方米(屋外遊戯場に対する割合は約七・六パーセント)、午前一〇時一六・五平方米(同じく約三・八パーセント)で、午前一一時には皆無となるのであって憩の家それ自体の日影は些細なものであり、このこと自体でもって本件工事を差止めることはできない。

また債権者らは、本件憩の家が建つこと自体債権者の貴重な日照享受の場を奪うことである旨主張するけれども、その主張は、憩の家建築地がもともと保育所の屋外遊戯場であったことを前提とするものであり、その前提自体理由がないことは既に述べたとおりであるから、とおてい採用することができない。

3、次に、最低基準五〇条六号後段違反の主張について判断する。

最低基準五〇条六号後段は、保育所の「屋外遊戯場の面積は満二歳以上の幼児一人につき三・三平方米以上であること」と定めているところ、右規定は、入所時満一歳の幼児も一年間の保育を経過する過程において当然満二歳に達するものであるから、基準面積を算定するにあたっては満一歳児を含めた定員を基礎として算出すべきものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、保育所の定員は全体で一五〇名であり、うち満二歳以上の幼児は一一七名、満一歳以上二歳未満の幼児が一八名であることは前認定のとおりであるから、満一歳以上の幼児の定員一三五名に見合う屋外遊戯場の面積としては四四五・五平方米以上が必要とされることになる。そうして本件保育所の屋外遊戯場の総面積は四三六・五五平方米であるから、前示最低基準を満たさず、少なくとも八・九五平方米以上が不足しており、右基準に違反していることが明らかである。

ところで、憲法二五条の理念を受けて、児童福祉法一条は、「①すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるように努めなければならない。②すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。」旨、同法二条は、「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。」旨、児童の権利と、国等の義務を規定する。そして児童の人間らしい生活をする権利を保障するための具体的保護措置としては、たんに児童手当等の経済的給付のみでは十分でなく、それに加えていわゆるサービス給付が必要とされる。そのため、同法二四条は、「市町村長は、保護者の労働又は疾病等の事由により、その監護すべき乳児、幼児の保育に欠けるところがあると認めるときは、それらの児童を保育所に入所させて保育しなければならない。……」として、保育所における一般的要保護義務を課している。さらに、同法三五条において、国あるいは地方公共団体が保育所の児童福祉施設を設置することができる旨規定し、これらの施設設置については、同法四五条が「厚生大臣は、中央児童福祉審議会の意見を聞いて、その最低基準を定める。」旨厚生大臣の最低基準設定義務を定め、右義務に基づき省令第六三号により前記最低基準が定められている。

そうしてこのようにみてくると、同法四五条が児童福祉施設につき、厚生大臣にその最低基準の定立を義務づけたのは、憲法二五条、児童福祉法一条ないし三条の趣旨にかんがみ、児童がひとしく適正な施設のもとに保育養護されるべきことを担保することを目的としたものというべく、これらの一連の規定の態様趣旨から考えると、少なくともひとたび児童が保育所に入所し、そのもとでの保護が開始された以上、当該児童に右厚生大臣が適正な保護をするに足りると認めて設立した保護基準(最低基準)による保護を受ける権利があると解するのが相当である。(もっとも、児童福祉法四六条は、いわどる最低基準の実施につき、改善命令、事業の停止命令を含む行政庁の監督権限を規定するが、この規定が右の権利を否定する根拠とすることはできない。)

しかしながら、児童福祉施設等が右最低基準に違反している場合右権利に基づき、その設置者に対し具体的にどのような請求が可能かは、諸般の事情、とりわけ他の権利との関係や、違法状態、侵害行為の態様等により一律に論じることはできないけれども、本件のように、保育所敷地と憩の家建設予定地は隣接し、ともに債務者の所有地であるうえ、従来憩の家建築予定地を何らの留保もなく債権者らを含む保育所入所児が利用しており、最低基準違反の瑕疵を治癒することが容易に可能な場合には、少なくとも前示適正な保護基準による保護を受ける権利の内容として右基準に適合する面積の屋外遊戯場の使用を要求する権利があるものと解するのが相当である。

そうだとすると、本件憩の家が予定どおり建設されることにより、保育所の屋外遊戯場の最低基準を八・九五平方米下まわることは前認定のとおりであるから、債権者らは前記権利に基づき、債務者に別紙図面表示の青実線をもって囲んだ土地内のうち当初から保育所の屋外遊戯場として予定されていた土地以外にも右八・九五平方米以上を保育所の屋外遊戯場として使用させることなく本件憩の家を建設してはならないことを請求する権利があるものというべきである。

なお、債権者らは、右最低基準そのものが著しく低きに失し憲法二五条、児童福祉法一条ないし三条に違反する旨主張するけれども、本件全疎明によるもこれが違憲違法とまでは断ずる資料はない。

4、次に、債務者は保育所の東端からやや西寄りの線に沿って保育所の屋外遊戯場内に南北に板塀を設置していることは前認定のとおりである。しかし、右板塀は、危険防止のための一時的暫定的なものであり、憩の家の建設が一応予定されている現段階にあっては、右設置の趣旨からやむを得ないものというべきである。しかし、右板塀は保育所の屋外遊戯場内に設置され、債権者らの当該部分の使用を妨げていることが明らかであるから、債務者は憩の家の完成後は速やかにこれを撤去する義務があるというべきである。

四、以上のとおり、債権者らには当初から保育所の屋外遊戯場として予定されていた土地以外にも、憩の家および緑地帯敷地のうち八・九五平方米以上の土地を使用する権利があるというべきところ、債務者によって憩の家が建設されてしまうと右権利が恒久的に侵害され、右侵害は本案判決の確定をまっていては回復し難い。

五、してみれば、債権者らの本件仮処分命令申請は右認定の限度において理由があるので保証を立てさせないでこれを認容することとし、申請費用について民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山田鷹夫 裁判官 田中観一郎 小川良昭)

<以下省略>

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